珈琲の家庭焙煎

 
〖はじめに〗





 コーヒーノキにコーヒーの花が咲き、その花の咲いたところにコーヒーの実がなります。熟したコーヒーの実を収穫し、コーヒー生豆にすることを『精製』と言います。そして、コーヒー生豆を焙煎したものがコーヒー豆です。

 コーヒー豆をコーヒーミルで挽き、粉にして、粉を濾し紙に入れ、ドリッパーにのせ、上から湯を掛け、抽出したものがコーヒーです。

 ぎんなんを炒る、『炒り網』を用いたコーヒーの『手網み焙煎』は特に深煎りを好むひとにおすすめです。ご家庭における、コーヒー生豆の入手と保存、焙煎について主にご紹介します。

〖生豆ヲ買イニ〗

 インターネットで[コーヒー生豆 通販]と検索するとコーヒー生豆を販売しているお店を見つけることができます。「ワイルド珈琲」は500gから「グリーンコーヒーストア」は1kgからと少量の生豆を買うことが可能です。コーヒー生豆を選ぶ上で大切だと思われる3つの事をここでご紹介します。

 カフェコメルシオでも、ネットで生豆を販売しています。直接のお買い求めをご希望の方はEメール等でご連絡下さい。

 まず、コーヒー栽培産地の『標高』が高い所のコーヒー生豆は品質に期待ができます。少なくとも標高1400m以上の産地、1800mを越えるものはなお良いです。

 2ハゼ以降の焙煎で、標高1400mから1800m未満の生豆はハイロースト、シティローストまで。標高1800m以上の生豆はフルシティ、フレンチ、イタリアンローストまでを目安と私は考えます。標高の高い場所で栽培された生豆は、かなりの深煎り焙煎に耐えられる硬さを持っています。また精製別でみると、ナチュラル精製とスマトラ式精製の生豆は、浅煎りの時に感じる独特の風味(ストロベリー、アーシー)を、深煎りでも感じられる傾向があります。

 次に、『収穫日』(コーヒーの実を収穫した日)が大切です。収穫後1年以内の新鮮なニュークロップのコーヒー生豆は品質が良い状態で、焙煎した豆は風味が強いです。ニュークロップの定義ですが、例えば2022年7月現在、2021年10月から2022年9月の間(コーヒーは10月が年度の始まりです)に収穫されたコーヒーの事をニュークロップと呼びます。

 最後に、品質の良いコーヒー生豆の『相場』のお話です。2022年7月現在、コーヒー生豆の値段も上昇していますが、現時点で品質が期待できるコーヒー生豆の相場は1キロ1500円から2000円辺りと私は考えます。さらに上等な生豆で1キロ2600円から3000円の生豆があります。ちなみにアラビカコーヒーの先物を扱うニューヨーク市場、今日(22年7月11日)の取引価格は1ポンド(453,6g)あたり約2ドル20セント(約300円)で取引されています。コーヒー生豆1キロは約660円と換算されます。

 『産地の標高が高く』、『収穫後1年以内』で『1キロ1500円から3000円』のコーヒー生豆は品質と風味にかなり期待できます。コーヒー生豆を買うときの参考になると思います。




 世の中に多く出回っているのはウォッシュト精製のコーヒーですが、見た目の特徴と風味の違いをはっきりととらえるのに、ナチュラル精製、スマトラ式精製とブラジルナチュラル精製の3つのコーヒーを飲み比べる事をおすすめします。


※ナチュラル精製とブラジルナチュラル精製は精製方法は同じです。風味の特徴(主に、ナチュラル精製はストロベリー、ブラジルナチュラル精製はナッツ・キャラメル・チョコレート)が明らかに違うので分けています。

〖生豆ヲ見ル、保存スル〗


『虫食い豆』


 コーヒー生豆を買ったあと、コーヒーの風味をより良くするために、生豆の『ハンドピック』(欠点豆をとりのぞく作業)をします。ブラジルとコロンビア産、スマトラ式精製の生豆は欠点豆が多い印象ですが、1キロ2000円から3000円もする高価格帯の生豆では欠点豆は少ないです。
 コーヒー生豆を白色か黒色の紙などの上に広げて、主に『虫食い豆』(コーヒーノミキクイムシによる)と(過発酵のために)『黒い豆』をとりのぞきます。また、焙煎後は(未成熟のために)『色付きが悪い豆』をハンドピックします。




 コーヒー生豆の保存は、『外側にポリ袋、内側に二重にした紙袋』、その入れ物の中に生豆を入れます。なるべく空気を入れないように包み、口をしばります。高温多湿、直射日光を避けて棚などで保管してください。家庭用真空パック器を用いて真空保存するのも良いでしょう。


 写真にあるように、外気と日光に触れたままの右側の生豆は購入後4ヶ月でやや白くなり劣化してしまいます。左側の生豆はポリ袋と紙袋で保存した生豆です。生豆が徐々に劣化することは否めません。生豆は適量を買い求め、収穫後1年以内に焙煎し、焙煎したコーヒー豆が新鮮なうちに味わうことが最善です。

 次に精製別の生豆の違いを紹介します。まずは生豆の匂いについて、ナチュラル精製の生豆はそれと分かる匂いがあります。それはストロベリーのような匂いです。他の精製の生豆、ウォッシュト、スマトラ式とブラジルナチュラルはあまり匂いはありません。それでもニュークロップの新鮮な生豆は微かに植物あるいは果実のような清々しい感じの匂いがあります。

【ナチュラル精製の生豆】色はやや黄色やオレンジ色に近い印象。他の精製の生豆と違いベリー系の香りがします。

ナチュラル精製のコーヒー豆(焙煎後)、センターカットも色付き、それでナチュラル精製のコーヒー豆だと分かります。ベリー系の風味が特徴です。

標高1650m~1820m
エルサルバドル
サンタアナ
ナチュラル精製
標高1600m~1800m
インドネシア
ジャワ島
ナチュラル精製
標高1500m~1800m
ブルンジ
ンゴジ
ナチュラル精製

【スマトラ式精製の生豆】ウォッシュト精製の生豆の灰色よりさらに暗く深い灰色の印象。

スマトラ式精製のコーヒー豆、センターカットはやや白いです。コーヒー豆の見た目がウォッシュト精製の豆と比べて、割れた豆や裂けた豆など多い印象です。土(アーシー)や木、ハーブのような独特な風味があります。

標高1600m
インドネシア
スマトラ島
アチェ
スマトラ式精製
標高1400m~1500m
インドネシア
スマトラ島
リントン
スマトラ式精製
標高1300m~1500m
インドネシア
フローレス島
スマトラ式精製
【ブラジルナチュラル精製の生豆】ややオレンジ色、黄色に近い印象。

ブラジルナチュラル精製のコーヒー豆、ナチュラル精製なのでセンターカットが色付きます。他のナチュラル精製の豆より、ブラジルの豆は小さくやや薄い印象です。ナッツ、キャラメル、チョコレートのような風味が特徴です。

標高1200m
ブラジル
ミナスジェライス
ブラジルナチュラル精製
標高1080m
ブラジル
南ミナス
ブラジルナチュラル精製
標高870m~1000m
ブラジル
マッタスデミナス
ブラジルナチュラル精製
【ウォッシュト精製の生豆】色は灰色に近く、暗い緑色の印象。

ウォッシュト精製のコーヒー豆、センターカットはやや白いです。他の3つの精製『ナチュラル』『スマトラ式』『ブラジルナチュラル』よりも風味の幅が広いように思います。

標高1820m
パプアニューギニア
東ハイランド
ウォッシュト精製
標高1818m
ブルンジ
カヤンザ
ウォッシュト精製
標高1800m
コロンビア
ウィラ
ウォッシュト精製
標高1694m~1744m
メキシコ
プエブラ
ウォッシュト精製
標高2000m
エチオピア
シダモ
ウォッシュト精製

マウンテンウォータープロセス デカフェ

〖生豆ヲ焙煎スル、手網ミコーヒー焙煎〗

 手網みコーヒー焙煎のコツは、コーヒー生豆の水分をしっかり抜くことです。豆に水分が残ると渋味、えぐ味、青臭い香りの原因になります。弱火(強火の遠火)でじっくり水分を抜いていくことが大事です。

 焙煎器はぎんなんを炒る、『炒り網』を使用します。価格の変動はありますが、22年7月現在、ヨドバシ.comでは、
【青芳 アオヨシ NE-10002 [炒り網 S 13cm]】直径13cm(生豆50gが適量)のものが1,160円で手に入ります。

①コーヒー生豆の研ぎ洗い

 みかんが入っているネット(コメリでは「クリネット」の名前で販売されている)にコーヒー生豆を入れます。そして水の張ったボウルの中で、生豆を米のように両手で挟み、研ぎます。




 生豆の研ぎ洗いをして、チャフ(生豆の回りを覆う薄皮のこと)を取り除くことで、コーヒーの味わいがすっきりします。チャフがついたまま焙煎をすると、焙煎中にチャフが燃えて、それが原因でいぶり臭のあるコーヒーになってしまいます。(電動の焙煎機では排気装置があり、チャフを回収します)




②手網みコーヒー焙煎

 手網み焙煎器(炒り網)に研ぎ洗いした生豆を入れます。換気扇を強に、ガス火を強火にします。キッチンタイマーをカウントアップさせたら、焙煎器をガス火、熱源の真上で左右に激しく短く振ります。




※焙煎器の位置はあくまで目安です。ガスコンロの火力や環境によって、調節して下さい。


0~1分(後) 10cm(焙煎器の位置・ガス火の上) 強火
生豆を乾かすため、強火を1分程あてます。


1~6分 30cm 弱火
生豆を温め柔らかくして、水分抜けをよくします。→生豆が多少ゆるみ白っぽくなります。これは水分が抜けている証拠です。青臭い匂いがします。




6~9分 30cm 弱火
生豆の色が白から黄色っぽくなります。香ばしい匂いがします。




9~11分 20cm 中火
生豆は黄色から茶色に変わります。青臭さがなくなり、かなり香ばしい匂いが感じられます。水分が抜けたため、生豆はシワがふえます。




11~14分 20cm 中火 
→1ハゼ始まり 10cm 強火(約1分程)
→1ハゼ終わり 20~30cm 弱火
生豆は全体的に茶色になります。→1ハゼが始まったら(パチパチと鳴る)、ガス火に近付け強火(10cm)にして、しっかり豆をハゼさせます。→1ハゼが終わったら、焙煎器を火から遠ざけ弱火(20~30cm)にします。


(1ハゼの終わりがミディアムローストです)


14~16分 30~15cm 弱火~中火
1ハゼが終わり、2分程後に2ハゼが始まるよう火加減をします。(豆のシワをしっかり伸ばす時間です)→2ハゼが始まります。(ピチピチと鳴る)しばらくすると音が連続するようになります。弱火でじっくりと仕上げていきます。


16~20分 30cm 弱火
煎り止めをします。ガス火を消して、ステンレスのザルに豆をあげ、竹のしゃもじで豆を混ぜ、うちわで扇ぎ、急速に冷まします。

③コーヒー豆の冷却

 豆内部の焙煎が進行するので、急速に豆を冷やす事が大切です。


焙煎度合いに決まりはありませんが(店によって違う)、焙煎度の目安をお伝えします。

ミディアムロースト 1ハゼの終わり
ハイロースト    2ハゼの始まり
シティロースト   2ハゼの連続10秒
フルシティロースト 2ハゼの連続30秒
フレンチロースト  2ハゼの終わり
イタリアンロースト 2ハゼの終わり以降30秒程

〖コーヒーヲ遊ブ、親シム〗

 「数多くの産地のコーヒーがあるけれど、コーヒーの違いはよく分からない」という声を耳にします。そんな時、私は精製違いのコーヒーを飲み比べてみることをおすすめしています。ナチュラル精製のコーヒー、スマトラ式とブラジルナチュラルの順に繰り返し、飲んで味わってもらうのです。そうするとナチュラルのストロベリー感、スマトラ式のアーシーさ、ブラジルナチュラルのナッツ・キャラメル・チョコレートといった代表的な風味に気付くのだと思います。

 風味はコーヒーが温かいとき(60℃)よりも少し冷めたとき(40℃)の方が分かりやすいです。豆の品質が良いものは冷めてもコーヒーに味わいがあります。焙煎度合いに関しては、より酸味のあるミディアムロースト(1ハゼの終わり)かハイロースト(2ハゼの始まり)のどちらかにお客様の好みが分かれるように思います。

 さて、私はここで『珈道-かどう-』という遊びを提案します。これは主人がコーヒー生豆を客人に見せ、それから焙煎と抽出をして、コーヒーを飲んでもらいます。客人はそのコーヒーが「ナチュラル(精製)」なのか「スマトラ」それとも「ブラジル」かを当てるのです。更に産地まで言及してもいいでしょう。主人はあらかじめ札にそのコーヒーの精製法と産地などを記し、台の上に客人に見えないよう伏せておきます。最後にその札を客人に見せ答え合わせと感想をお話しましょう。


 そのコーヒーが何かを当てるのは難しい事ではと思われるかもしれません。確かに産地まで当てるのは難儀に思えますが、ナチュラル、スマトラ、ブラジルかを当てるのは易しい事です。先ほど紹介した様に生豆の見た目で違いが判るし、ナチュラル精製の生豆にある匂い、それから焙煎後のコーヒー豆のセンターカットの色付きのあるなしでも判断できます。(※ただし例外はあります。ウォッシュトとスマトラでもフレンチロースト、イタリアンローストの深煎りのコーヒー豆はセンターカットが色付いてしまうのです。それからナチュラル精製でも精製の工程できれいにミューシレージを取り除いた生豆が焙煎後色付かない事があります。)コーヒー焙煎に慣れてくると、焙煎直後のコーヒー豆の香りで、精製のいずれかを判別することが出来るようになります。『珈道』という遊びで、飲むことより前の生豆や豆の観察を通して、コーヒーをより親しんでもらえたらと思います。






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